2013年7月28日日曜日

仮説1で正しそうな気配 その2

 
 仮説1で正しそうな気配の実験を受けて、もう少し別の角度から検証をしてみました。

細いパイプばかりをいくつか一緒に入れて様子を見たのです。
以下の写真のように、外形6mmφのパイプの長いものを2本、短いものを2本、外形8mmφの短いパイプを1本という構成で同時に通電をしてみました。

並べて、


蓋して、


通電します。


真空度が上がるとすべてのパイプでプラズマが消灯しました。
まず長い6mm、次に短い6mm、最後が8mmでした。 構造的には細くて長いほうが閉空間に近い環境を作ると思いますので、この順番での消灯は理にかなっているように思われます。また、この結果から仮説2「円筒の内部は圧力が高くてプラズマが集中するのかもしれない」は棄却されます。なぜならもっとも複雑な構造に近い形状である長い6mmが真空度を上げていったときに最初に消灯するからです。仮説2を支持するためには消灯の順番が逆でないといけません。


動画で見てみるとよりよくわかります。
この動画はプラズマが発生する程度まで真空引きした状態でプラズマを点灯させ、その状態でポンプを切ったところからスタートします。
3秒たったところでポンプをONにし、真空引きを再開しています。するとまず長い6mmが消灯し、次いで短い6mm、そして下のほうなのでちょっとわかりにくいですが、13秒経過時点で8mmも消灯します。そして真空度が上がるにしたがって床面全体から発生するプラズマが強くなっていくのがわかります。
(このことも仮説2を棄却すべき観察結果のひとつです。)
また、仮説の検証とは直接関係ありませんが、この実験ではじめて見つけたことがあります。円筒内のプラズマが消灯した後を良く見ると長い6mmの先端中央部から非常に細いプラズマが上方に伸びているのが見えます。これも面白い現象です。(上の写真でもわかりますね)
何かに応用できないか考えてみます。

動画はさらに続き、19秒時点でポンプを切ります。
すると今度はリークによって徐々にチャンバ内の圧力が上昇していきますので、消灯したのと逆の順番でプラズマが点灯していきます。これは真空度が下がることによって陰極暗部が短く(薄く)なり、細いパイプの中でもプラズマが発生できるようになるためと思われます。


ということで、どうやら仮説1が正しい説明に近いように思われます。

今回はたまたま小ソケットを実験に使っていたのでこのような現象を見つけてソケット/パイプの径を変えた追試とその結果を考察する機会を得ました。これは非常に運が良かったといえます。最初に大ソケットを使っていたら円筒内部のプラズマの集中には気がつかなかったかも知れません。もちろんそうであれば管径を変えた実験をする可能性は低いです。
小ソケットの径と、私が使っている真空ポンプの排気能力、チャンバの大きさ、等々いくつかの偶然が重なって今回の工夫にたどり着くことが出来ました。

今回は非常にラッキーでした。

仮説1で正しそうな気配

 
円筒電極を使った実験で立てた仮説を検証してみました。

まずは太さの違うソケット、というか銅管を混在させた実験。
大小ソケットに加えて、銅パイプの切れっ端を加えて同時に通電してみます。

並べて、

蓋して、


通電。 大→小→パイプにしたがってプラズマが明るくなっているのがわかります。


動画で見ます。 時間が経過して真空度が上がっていくとパイプのプラズマが不安定になり、点滅するようになります。これは真空度が上がることにより陰極暗部の幅が広がり、ついにはパイプの半径を超えるためと思われます。そうなるとパイプ内部は陰極暗部に占められることになりますのでプラズマが消灯してしまうことに説明がつきます。


さらに検証します。

ついに来たか

 
ここのところの実験で二つの方向で大きく進捗がありました。
安定して比較的きれいな金属膜を形成する条件を見つけたように思います。

たとえばこれ。
これはここでのなはなはさんからのアドバイスにしたがってプラズマを動かしながらマグネトロンスパッタしたもの。


そしてこちらはいろいろ実験しているうちに見つけた、マグネットを使わずにプラズマを集中させる方法を使って作ったもの。


どちらも美しい金属銅の膜が出来ています。付着力も強く、膜厚も十分に確保できています。
製膜時間は上が3分から5分、下はわずか1分です。マグネトロン使わずに。

では作製過程です。
まずは上に挙げたプラズマを動かす方法からです。
ターゲットの下でマグネットを動かすということで、それなりにしっかりした基板ホールドが必要になります。そこで、基板ホルダを作ることにしました。

ここで紹介しましたSUSの板を使います。厚さは0.1mm。
スケッチアップでラフ図を描いて、展開図に分解したものをSUS板上にけがいていきます。


こんな感じに切り出します。金切りバサミを使いました。


穴位置にポンチで目印を付け、


板厚が薄いので捨て板に万力で固定し、


穴を開けていきます。やっぱり汚い.....


で、狙いの形状を切り出して、


折り紙加工していきます。


完成。


かごの中に基板を入れて、丸穴がマスクの代わりになるという使い方をします。


穴位置がちょっとずれました。


高ナットを使ってこんな感じにチャンバの天井から吊り下げます。


あまったSUS板のきれっぱしを使って、


対極も作ってみました。
基板ホルダそのものを対極(陽極)として使う方法が一般的ですが、このチャンバでは電極を別にして(基板部分は電位的に浮かして)スパッタすることも出来るようにしています。




ではスパッタします。

マグネトロンをターゲットの下において円を描くように動かします。


動画をとるのを忘れました。
とおもったら、以前にターゲットの下でマグネットを動かす動画をアップしているのを思い出しました。
このときに実験していながらすっかり忘れておりました。



この方法の問題はターゲットの冷却ができないということです。
マグネットをターゲット下で動かしますので、大きなスペースが必要です。とても放熱機構をおくことは出来ません。
ということで、上側にティッシュペーパーで鉢巻を作ってそれに水をかけます。もうもうと湯気を上げながらのスパッタリングです。


終了後。ホルダ内の基板に金属光沢が見えます。
またターゲット上のスパッタ跡がこれまでのマグネトロンスパッタで作られたものよりも大きくなっているのがわかると思います。


取り出しました。ホルダの底がくっきりと銅色になっております。
 ホルダに開けた丸窓よりもスパッタされている金属面のほうが広いことがわかりますでしょうか。それに円形の周辺部がぼけたようになっているのも見えます。

この実験ではマグネトロンを動かしていますので、スパッタされたクラスタが飛んでくる方向がさまざまに変わります。その結果斜め方向から飛来したクラスタが基板の奥のほうに衝突するためだと思われます。ちなみにマグネットを動かさないときは、ほぼ窓と同じ大きさで周辺のボケもない薄膜が形成されました。
ちゃんとした基板ホルダならマスクと基板がぴったりくっついていますのでこんなことは起きないのですが。まあそこはDIYということで。


実験の全景はこんな感じ。


出来上がった基板にワッシャを乗せてみます。
こうすると汚い部分が隠れて非常に美しい仕上がりに見えます(笑

なはなはさん、アドバイスありがとうございました。アドバイスの賜物です。
今回の実験はターゲットの冷却という問題がありますので、今後は基板を動かす方向を検討したいと考えております。基板を動かすのはこの下に説明しますもうひとつの方法にも応用できると考えております。



次に、マグネトロンを使わない新しい方法です。
これはかなり以前、初期的なマグネトロンの実験をしていたときに面白い現象(というのも大げさですが)だなと思って見ていたものです。最近になってこれを製膜に応用することを考え、なかなか良い結果を得ることが出来ました。

面白い現象はここに記録しています。 詳細な記録ではないのですが、円筒形のターゲットの内側にはプラズマが集中すること、その中にガラス基板を入れると熔けてしまうほど高熱であることを書き残しております。
今回のアイデアはその「円筒形のターゲットの内側にはプラズマが集中する」という現象を利用したものです。「現象」などとカッコいい言葉を使っておりますが、実のところどうしてそうなるのか良く考察できておりません。が、結果的にいろいろとメリットがあるらしいことがわかっています。

なにはともあれ、まずはその構成を。
以下の通り、ターゲットの下に円筒状の銅ソケットを置くだけです。銅ソケットは銅管を接続するための部品で、ロウ付けを想定してありますのでねじ切りも何もないただの短いパイプです。

ソケットをよく磨いて酸化膜を落とし、銅面を露出させます。


銅板の中央に立て、


チャンバを被せます。
 

全景はこんな感じになります。この構成では銅板(マグネトロン実験でのターゲット)の下には何もありませんのでヒートシンクをおくことが出来ます。つまり放熱対策もできるということです。これは大きなメリットです。


で、これを使うとどうなるか、というのはこの製膜状態の動画をご覧いただくと良くわかります。
動画ではプラズマはほぼ円筒の中にしかないように見えます。実際は映っていないだけで床面にもうっすらとプラズマがあり、すべてが円筒内というわけではありませんが。
こういった電極構成にすると、円筒の先端部分、つまり対極に近くかつ電極の形状によって電界が集中する部分にプラズマも集中する、ということはありうるような気がするのですが、実際は円筒の内部、それもかなり深いところまでプラズマがあるように見えます。円筒内にプラズマの円筒が出来ている感じです。


 動画ではなかなかわかりにくく、また写真の撮影も困難なのですが、円筒の先端からは円筒よりも細いプラズマの束が噴出しているのがわかります。ここに基板をさらすと実に良い感じで膜が出来るのです。
撮影が難しいので図示します。

銅板の上に銅ソケットが置かれています。


プラズマはこのように発生しているように見えます。


横から見るとこんな感じ。 ソケットとプラズマの間には明らかな隙間が見えます。


そこに基板ホルダを浸すというイメージです。


なぜこのようなことが起きるのかについて少々調べてみたのですが、今のところわかっておりません。
私と息子で考えた仮説は以下のようなものです。
  1. 銅板(床)、ソケットの外側、内側すべてで均等にプラズマが発生しているが、電極で囲まれている円筒の内部は周りから中心に向かってプラズマ密度が加算されるため結果的に集中しているように見える。つまり幾何学的な加算が生じているだけで特別な物理状態になっているわけではない。
  2. 円筒の内部は外部に比べて圧力が高くなっており、窒素分子数が多いためにプラズマ密度が高くなる。
1.についてはなるほどと思われる部分もあるのですが、円筒の深いところまでプラズマが存在する(様に見える)理由が説明しにくいように思われます。円筒内は等電位面に囲まれていますので深いところでは対極からシールドされた環境になっていると思われます。そのような部分ではプラズマが発生しにくいはずです。閉じた電極内部にプラズマが発生しないように。
2.については以前何かの本で読んだような気がするのですが、クライオポンプを使うような高真空の世界の話だったような気もします。チャンバの設計で凹凸部分を深くしすぎると真空度が上がりにくくなる云々といった記述です。

どなたかお分かりの方がいらっしゃいましたらぜひ教えてくださいませ。
理由がわかれば更なる改善の手がかりが得られると思います。よろしくお願いいたします。

さて、では製膜の様子です。
こんな感じの配置はすでにご紹介したとおり。


間隔は3mmくらいです。この構成では基板ホルダを対極にしたほうが良い結果が得られる傾向にあります。


基板を置いて、 動画のような感じでスパッタを行います。ほぼ1分くらいで膜が出来るのが見えます。


 で、出来た膜がこれ。上の段は円筒電極を使わない実験の例。褐色や黒色の酸化膜が出来てしまっています。
下の段は円筒電極を使ったもの。ムラはありますが、注目すべきはすべてのバッチで金属膜が得られていることです。しかもこれらすべての膜は綿棒でごしごしこすってもまったく落ちません。表面にかすり傷が入る程度です。さらに、1分の製膜にもかかわらず非常に厚く、まったく光を透過しません。
さらにさらに、10回やって10回ほぼ同じような膜が出来ています。実はこの安定性こそこの方法の最大の特徴なのです。今までもきれいな膜は出来ていましたが、まったく同じように作っても再現しない場合がほとんどだったのです。
まだムラも多く膜質はほめられたものではありませんが、そこそこの品質であっても再現性が確保されていることがすばらしいのです。




このレベルをボトムラインとして、改善に取り掛かります。
改善策の1は膜のムラ改善です。上の基板群をご覧いただくとわかりますが、どれも真ん中から同心円状のムラがあります。これはソケットの中心点の真上に相当します。製膜はこの中心点から始まります。(動画では基板の中心とソケットの中心がずれていましたので基板の端から膜が出来ていくのがわかります。)
このようなムラをなくすには基板を動かしてやればよいのですが、基板を動かす機構を作るのはそれなりに手間がかかりますのでまずはソケットの径を大きくして中心をぼかすことでムラが減らないかということを実験してみました。ソケットの径を変えるとプラズマの状態も変わることが予想されます。これは前述した仮説1を検証することにも繋がります。

で買ってきたのはこのソケット。80円でした。スパッタのターゲットが80円とか(笑


大きさの比較です。右が最初の実験で使ったやつ。


銅板上に置いて、


基板を上から吊り下げ、チャンバを被せます。



実験の精度向上のために今回よりここで買った電圧計と電流計を導入しました。


スパッタしているときのおおよその電圧電流。後述しますが、小ソケットを使っているときよりも電圧が低いです。


製膜の様子。
写真を大きくする(クリックします)とよくわかりますが、大ソケット内のプラズマの集中は小ソケットほどではありません。ソケット回りには銅板(床面)から生じたプラズマも良く見えます。
ということは、仮説1は正しいのかも、という気がしてきます。


で、出来た膜がたとえばこれ。割れてしまってますが、一番ましだったやつ。ご覧の通りあまりきれいではありません。プラズマの集中が弱いせいと思いますが、製膜に時間がかかるのです。



ちょっと遊びで小ソケットを大ソケットの中に入れて二重の配置をやってプラズマの様子を観察してみました。配置はこんな感じ。


 でプラズマはこんな感じ。小ソケット内だけにプラズマが集中しているのがお分かりになりますでしょうか。


で、そのときの電圧が大ソケットだけに比べて高いのです。電流は同じ100mAなのにです。
これも単なる推測ですが、小ソケットを使うとプラズマ密度が上がり、ソケットそのものの温度も上昇しますので抵抗が大きくなって、その結果電圧が上がっているのではないでしょうか。放電はほとんどプラズマ部分で起きているはずですので、電流は小ソケット壁面を流れている割合が多いと思われます。


じゃあ、この状態で製膜してみようかと。そしてついでに基板の配置を変えてみようかと。
ということで、ほぼお役御免になった大ソケットを削って基板を置ける溝を作ります。


で、基板を置いて、


スパッタしてみました。


その結果、ホルダを使った場合に比べてムラの少ない膜を得る事が出来ました。
こんな感じです。最初に載せた画像も含めて何枚か。

反射しているとこ。

この丸穴は10mmφなので十分に均質な膜が出来ていることがわかります。


付着力、膜厚共に十分なレベルで、これは反射鏡として使えるものになっています。


きれいでしょ。


しかしながら、ムラについては最終的に基板かターゲットを動かさないと解消しないと思います。うえの例も何枚か作ったものの中からもっともムラが無いものを選んでいます。
円筒電極を使うことで金属厚膜を短時間で再現性良く作ることが出来るようになりました。 あとはムラの解消です。もう一歩です。


がんばって基板の移動機構を作ろうと思います。